ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

2006-01-01から1年間の記事一覧

貴志康一評伝

今回は、レコードとは異なる内容です。 2006年もはやひと月足らずになりましたが、年内に貴志康一の評伝が出版されました。 http://www.kokusho.co.jp/shinkan/index.html 「貴志康一 永遠の青年音楽家」毛利眞人 四六判・上製 400頁 3000円(税別) 国書刊行…

学生バンド�T

大正期から昭和初期、井田一郎のバンドが東上するまでの東京のジャズシーンでもっとも勢いがあったのは、学生バンドであった。若いジェネレーションが旺盛にジャズを消化吸収し、アーネスト・カアイのようなすぐれた指導者を得て、学生バンドながらプロはだ…

松竹座ジャズバンド

大阪の松竹座ジャズバンドについて、もうすこし突っ込んで書きたい。 関東大震災後、東京のダンスブームは関西に移動した、と書いた。 震災前、東京にはいくつものダンス倶楽部があったが、震災のためにたった一軒を除いて壊滅してしまった。関西に避難した…

東京のジャズバンド

フィリピン系バンドが来日し、日本人がよちよち歩きながらフォックス・トロットとジャズの演奏に踏み出した大正末期、日本のジャズの中心地は関西であった。 これは前にも記したようにダンスホールとその客とともに、伴奏音楽を演奏する楽士たちも関西に移っ…

初期のフォックス・トロット

ここで、フィリピン系バンドが活躍していた時期の日本人のダンスバンド、ジャズバンドを取り上げてみよう。 アメリカではジャズの発生と発展、新時代のダンスステップであるフォックストロットの発明と流行が重なって、フォックストロット形式のジャズが生ま…

大正昭和の来日バンド�V

「フィリピンバンドが来日したわけ」 当時のアジアにおいてジャズの中心地は一大国際都市、上海だった。その上海のジャズシーンに多くのプレイヤーを送りこんでいたのが、フィリピンであった。 フィリピンはスペイン領時代にキリスト教の布教が行なわれたた…

大正昭和の来日バンド�U

大正末期にはフィリピン人のバンドが何組も来日して、日本のジャズシーンに大きな影響を与えているのだが、いったい何組のバンドが来日したのか、それぞれのバンドがどのような顔ぶれであったのかは、まだ全貌が掴みがたい。 彼らは、震災前から日本に起こっ…

大正昭和の来日バンド�T

本場のジャズのフィーリングを日本に伝えたのは、レコードと、それから大正期にしばしば来日した、海外のジャズバンドであった。 初期の来日ジャズバンドは、日系移民の多かった関係からか、カリフォルニアやハワイから来ている。日本のジャズメンに多大な影…

青木晴子「君が居なけりゃ」

昭和初期にジャズソングを歌っていた青木晴子について、述べてみたい。 ジャズソングを歌っていたといっても、当時のヴォーカルの様式は、今日のいわゆるジャズヴォーカルとはかけ離れているので、ジャズシンガーというと語弊があるかもしれない。これは二村…

ロゼとサラサーテ

座右に置いてあるものから、二つのヴァイオリンのレコードを取り上げたい。 ひとつは、マーラー時代から1938年までウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を絶対的にリードし続けたコンサートマスター、アーノルト・ロゼ Arnold Rosé(1863-1946)のG&T盤である。…

日本のデコ・デザイン

レコードではないが、趣味で蒐めている楽譜について。先日入手した楽譜二点を紹介したい。 ひとつ目は1929年6月発行の白眉楽譜。 白眉楽譜ではこの年、伊庭孝の訳詩ジャズソングをシリーズでリリースしており(といっても確認した限りではほんの数曲のみだが)…

「椰子の葉蔭に」「毎晩見る夢」

久しぶりに探求盤が手元へ来た。 二村定一は1928年から31年にかけて、ビクターへ69面のレコードを録音しているが、その末期のレコードはなかなか手に入りがたい。ビクターへの録音の最後の二つはまだ手に入らないでいる。だからといって珍品と見なされるとは…

二つの追分

昨今、原稿仕事の多忙で当ブログの更新もはかばかしくないのは、まことに申し訳ないことである。 多忙のせいにしてはいけないが、また一つは物事をいいかげんに記述しては気が済まないという気質も反映して、且つなるだけ満足のいく文章をと考えるため、余計…

百萬圓

二村定一ファンの間でなかば神格化されているコミックソングである。 アコーディオン、ギター、カスタネット、ヴァイオリンという簡素な伴奏を舞台として、ナンセンスな歌詞、宴のあとの空虚さを思わせるような曲、過不足ない表現の歌唱、と三位一体そろった…

二村定一の「暁の唄」

「暁の唄」 中里富次郎訳詩、Milton Ager作曲、井田一郎編曲。二村定一,コロムビアオーケストラ。1931年2月新譜 二村定一は1928年より1929年にかけてニッポノホンに、時を同じくして1928年より1930年にかけて日本ビクターでレコードを吹き込んだ。特にビクタ…

原信子のFonotipia録音

原信子(1892-1979)は藤原義江と同様、浅草オペラから雄飛してイタリアの歌劇場に立ったソプラノである。 1913年、東京音楽学校のピアノ科を中退。その後、ハンカ・ペツォールトやアルフレド・サルコリーに師事して声楽を修めた。はじめローシーの帝劇オペラ…

ヨーゼフ・ヴォルフシュタール

私のもっとも好きなヴァイオリニストに、ヨーゼフ・ヴォルフシュタール Josef Wolfsthal (1899-1931)がいる。 大体、ヴァイオリニストの好みはプルジホダ、フーベルマン、キロガ、マルトー、ヴェチェー、ロゼーという個性の勝ったメンバーで固められているの…

「蒲田行進曲」の原曲"Song of the Vagabonds"�U

ひとつ重要なレコードを忘却していた。 1925年12月16日、電気録音となってすぐに吹き込まれたナット・シルクレット指揮ビクター・ノヴェルティー・オーケストラのコーラス附きのレコードはメリハリの効いた好演奏で、翌年に発売されると、アメリカ人の好みに…

「蒲田行進曲」の原曲"Song of the Vagabonds"

身辺がたいへん多忙になって、なかなか更新が進まなくなりました。 久しぶりの更新のような気がします。決してネタ切れではないのでそこのところは。 *−−−−−−−−−−−− 「蒲田行進曲」の起源についてずいぶん以前から興味を持っていてレコードを蒐めていたので…

タブー

1935年9月新譜 「タブー」はアフロ・キューバンの名曲で、聞けば誰でも、ああこの曲か、と分かるほどポピュラーな音楽である。キューバの女性作曲家マルサリータ・レクオーナが作曲、1935年にレクオーナ・キューバン・ボーイズが吹き込んだレコードで世界的…

サーカスの男

新宿帝都座舞踏場のタンゴバンド、ニューテイト・タンゴオーケストラが吹き込んだ「サーカスの男」(高橋孝太郎 編曲)である。1935年9月新譜。 この楽団は戦前のダンスホールの実働バンドで、曲は以下に記すとおりニューテイト・タンゴオーケストラが売り物…

東京帝大の学生カルテット

今回はニットーの茶色盤2枚である。茶色盤は特殊ラベルで、個人吹き込みに供されたカラーである。 上のはチャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」で、AB両面に亘って吹き込まれている。同曲をきちんと演奏したものでは、これが日本で最初ではない…

スエズ

大正期から昭和初期に流行した「スエズ」という曲があり、日本でもジャズバンドが録音しているので二種類並べてみる。 "Suez"はポール・ホワイトマンのオーケストラのバンドマン、ファーデ・グロフェ Ferde Grofe の作曲したフォックストロットである。グロ…

ポリドール白盤

道頓堀行進曲とは銘打ってあるが、これは日比繁次郎作詩、塩尻精八作曲の有名なそれではない。作詩作曲未詳の異曲である。但し画像を見れば判るように曲名を鉛筆で抹消した跡がある。これは社内会議にかける為にプレスされた所謂テスト盤である。 道頓堀行進…

空中行進曲

大阪朝日新聞と東京朝日新聞で制定した航空記念の唱歌、「空中行進曲」は1929年に日蓄系のニッポノホン、コロムビア、オリエントでレコード化された。先日の音盤倶楽部でようやく三種類が揃った。 オリエント以外のレーベルは目下、田舎のコレクションに架藏…

天神祭どんどこの唄

1930年8月新譜。 このレコードは大阪にとっては色々と面白い見所のあるレコードである。 天神祭を題材とした流行歌という点ではもっとも初期のものに属するし、最近あまり華々しくないにしても一応復活した松竹歌劇団の前身である松竹楽劇部のレヴューで歌わ…

アンリ・マルトー

更新がはかばかしくないが、お許しあれ。 アンリ・マルトー Henri Marteau(1874-1934)は小生のもっとも好きなヴァイオリニストの一人である。 近年スウェーデンであったと思うがマルトーとその弟子の録音を集めた復刻盤が出たはずであるが、あいにく入手しそ…

チンコロ仔犬

目下、出版用の最終稿に手こずっているのでなかなか更新がままなりませんが、煮詰ったときに簡単ながら更新したいと思います。 このレコードは1931年2月に来日したアルト歌手、クララ・バットの日本録音です。この北原白秋作詩・山田耕筰作曲の「チンコロ仔…

紐育行進曲

昭和初期に流行したジャズソングで「紐育行進曲」という曲があった。スマートな歌で、フラッパー風情の軽薄で浮かれた、華やかな味がある。たしかレヴューにもなった筈だ。しかし、それよりも二村定一が歌った「君よさらば」(時雨音羽 作詩)と同曲と言った…

辻吉之助・久子

しばらく間があきました。 仕事で多忙であったのであります。 これから更に多忙になるので、此処は随時更新ということになるのであります。 今回は辻父子のレコードを挙げてみる。先日、縁ありて織田作之助の小品「道なき道」に関連したレコードを有志に披露…