本日発売
保利透の初の単発書『SPレコード博物館 明治・大正・昭和のレコードデザイン』(Pヴァイン, 税込5,280円) 本日発売です。
ぐらもくらぶでおなじみ保利透さんの『SPレコード博物館』(Pヴァイン) は、その名に恥じぬ圧倒的な物量感で見る者に迫ります。
内容
内容的には
①主要レーベルの意匠さまざま、
②日本のレコード史をたどる形で種々のテーマでまとめるコーナー
に大別され、②にはぐらもくらぶでCD化されたテーマも散見されます。
レコードの分別にはさぞかし手間がかかったろうと苦労が偲ばれます。ぐらもくらぶでCD化したテーマの多くは二村定一やエロ歌謡、戦前ジャズ、レコード供養など筆者(毛利)が選曲や監修に当たっており制作時に目にしていた音盤も多々あるので、個人的に感慨深いです。この一冊に込められたコレクターとしての鑑識眼から、いろんなCDが出来上がっているというわけです。
参考までに
手前味噌になりますが、①の主要レーベルの意匠や日本レコード史的な部分は、拙著の『SPレコード入門 基礎知識から史料活用まで』(スタイルノート社) と併読すると、より理解と興味を深められるでしょう。本書が特級呪物なら僕の本は悪魔祈祷書といったところです。保利さんと僕は方向性が異なるかもしれませんが、補い合うことによってより大きな何かが出来上がると考えています。ぐらもくらぶの諸CDも補い合いの産物と言ってよいでしょう。
筆者はマイナーレーベルのスリーブ (レコード袋) をまとめたZINE『森本書店 No.36』(Dec. 2021)を発表して、当時けっこうな好評を得ました。LPレコードに関するビジュアル的なコンテンツは多々ありますが、SPレコードをビジュアルコンテンツとして楽しむ道に手応えを感じていました。満を持して刊行された『SPレコード博物館』は主としてレーベル (レコードの中央に貼付されたラベル) の集大成で、令和の時代のコレクション・アルバムとして望み得る最高の条件で制作されました。
レコードが主役だが
本書の主役はあくまでレコードであるという姿勢が明確に示されていますが、一個人のコレクションとして書籍という形になったこと自体が物語として成立します。文章は必要最低限で、著者が控えめなのは却って著者のレコードを選ぶ眼を引き立たせています。振り返れば昭和後期には、同種の書籍でも著者(コレクター)の主観と独断が強すぎて資料的価値の乏しい、そのくせ高価なビジュアル本がいくつもありました。令和の現代は、コレクターのあり方もおおきく変貌してきたといえます。本書『レコード博物館』について述べれば、語らぬことによって存在感を示すのには、この多分野と多分量のレコードが絶対的に必要です。
日本のレコードアーカイヴィングに道をひらく
このような個人コレクションが開陳されることによって、日本のレコード・アーカイブはより充実してゆきます。僕はボン大学・片岡研究会および「レキレコ」(歴史的音源所蔵機関ネットワーク) の活動を通してレコードアーカイヴィングをデータベース整備という面から捉えているので、将来的には個人コレクションの協力を仰いでレコード群のメタデータを書誌化できれば理想的だと考えています。
しかし保利コレクションの場合は、ぐらもくらぶでのCD化がアーカイブ事業ということになります。これもまたレコード史料活用の実践として良い方法です。
売れたCD、なかなか真価を認められないCD、ムラはありますが徹底して手を抜かないアルバムは広く評価されていると監修者として感じます。それを可能としているのは諸コレクターの協力もありますが、ベースとしてある保利コレクションです。
この方法の良いところはさまざまなテーマに沿ってアルバムが組めることで、なんのことはない本書の構成がまことにぐらもくらぶ的なのです。
本書の刊行によって、さらなるSPレコード界隈の振興と、これに刺激されたコレクターが奮起してレコードコレクション公開に覇を競われることを望みます。
愛蔵版として必携
価格は正直なところ安いとは言いかねますがカラーグラビアがてんこ盛りに詰まっていることを考えればコレクターズアイテムとして必携の書でしょう。ちなみにamazonではなぜか拙著『幻のレコード 検閲と発禁の昭和』(講談社) と抱合せで購入する方が多いようです。