ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

「蒲田行進曲」の原曲"Song of the Vagabonds"

身辺がたいへん多忙になって、なかなか更新が進まなくなりました。

久しぶりの更新のような気がします。決してネタ切れではないのでそこのところは。

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蒲田行進曲」の起源についてずいぶん以前から興味を持っていてレコードを蒐めていたので、それを一堂に並べてみる。

元々はチェコ出身でアメリカに渡ってオペレッタで成功した作曲家、ルドルフ・フリムル Rudolf Friml(1899-1972)の1925年の舞台作品、「放浪の王者」"King of the Vagabonds"の中の挿入歌、「放浪の歌」"Song of the Vagabonds"というのが原曲である。

このオペレッタは中世フランスの吟遊詩人フランソワ・ヴィヨンの冒険にまつわるストーリーで、大正期より「我れ若し王者なりせば」などという映画でもよく知られていた。活劇と恋愛に満ちたロマンティックな作品である。

初演も1925年と思しく、1930年のトーキー・総天然色映画化の際にも主役を務めたデニス・キングによって演じられた。

レコードのもっとも初期のものは上のラベルで、多くのレーベルにセミクラシックやポピュラーソングを吹き込んだアーサー・フィールズがコーラス付きで吹き込んでいる。1925年の録音で、リリースも同年か、あるいは1926年。 

カメオ CAMEOは1922年創業のレーベルで、アメリカ各地に展開していた安売りスーパーで売られていた、50セントの廉価レーベルである。従ってごく大衆的な流行に敏感であり、ブロードウェイのヒット曲や初期ブルース、フォックストロットのダンスレコードに強みを発揮した。1928年にアメリカパテと提携し、翌年、ブランズウィックなどを擁するアメリカンレコードコーポレーションの一レーベルとなった。

次いで現れたのが、フリムルのピアノ独奏による自作自演盤である。こちらは英国コロムビアに録音した、1927年のレコードである。フリムルの演奏は、いかにもオペレッタの作曲家らしいきびきびしたもので、特にタッチが美しいとか奥行きがあるとかいうのではないが、導入部のフレーズを東欧系の人らしくツィンバロン風に響かせているのが面白い。"Song of the Vagabonds"は半音階を多用したジプシー風の音楽で、ジャズの一要素となったクレツマー klezmermusik の要素が色濃く見受けられる。

〜続く〜