今回はニットーの茶色盤2枚である。茶色盤は特殊ラベルで、個人吹き込みに供されたカラーである。
上のはチャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」で、AB両面に亘って吹き込まれている。同曲をきちんと演奏したものでは、これが日本で最初ではないかと記憶する。電気録音となってからは、1930年代に鈴木カルテットや、いずれ紹介するであろうルモンド四重奏団などが吹き込んでいる。
このレコードは1926年から28年にかけての間に吹き込まれたアコースティック録音で、弦楽四重奏の珍しい記録である。
日本でも1910年代そこそこから弦楽四重奏のレコードが作られ始めたが、ラベルにメンバーまで明記するようになったのは大正末期のことで、実は素性のよく分からないレコードが多い。
この茶色盤のメンバーは
高辻威長,池田博久 violin, 澤義道 viola, 有坂愛彦 'cello
である。有坂は人も知る音楽評論家だから、その意味でもこのレコードは面白いということになる。この面子は東京帝国大学の学生カルテットであった。大正期には、東京音楽学校や東京の大学の学生音楽団がしばしば関西に遠征して音楽会を催していたから、そうした関西遠征のついでに吹き込んでいったものと思しい。
下のラベルはモーツァルトの変ホ長調のカルテットよりメヌエットである。変ホ長調のカルテットといっても幾つかあるのだが、いま現在このレコードの現物は東京のクリストファ・N・野澤氏に貸し出しているので、どの変ホであるかは戻ってこないと判らない。