ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

タブー

1935年9月新譜

「タブー」はアフロ・キューバンの名曲で、聞けば誰でも、ああこの曲か、と分かるほどポピュラーな音楽である。キューバの女性作曲家マルサリータ・レクオーナが作曲、1935年にレクオーナキューバン・ボーイズが吹き込んだレコードで世界的にヒットした。

ちなみにレクオーナキューバン・ボーイズは作曲家のエルネスト・レクオーナが結成したが、「タブー」の作曲者マルサリータはこのエルネストの姪といわれている。レクオーナキューバン・ボーイズの演奏はパリ風の洗練されたセンスで磨きがかかっており、いわゆる本場物のキューバ音楽とはいえない趣きがあるが、このボーイスによってキューバ音楽が世界的に流行したのもまた事実である。因みにアメリカ、ヨーロッパで流行したルンバは、キューバではソンに類するリズムだということである。

この「タブー」を日本のラテン音楽の先駆者、高橋孝太郎が編曲して、東京のダンスオーケストラが演奏したホットなレコードがある。

演奏しているのは、昭和10年代に新宿のダンスホール、帝都座にレギュラー出演していた、テイト・ニュー・タンゴオーケストラである。このバンドは、昭和8年に結成されたテイト・モンパレス・タンゴバンドが発展してできたバンドで、ジャズからタンゴ、ラテン音楽まで幅広くこなして、テイチクに沢山のレコードを録音した。

このレコードではクラリネット、テナーサックスとアルトサックス、ヴァイオリン、トロンボーン、ベース、アコーディオン、ドラムスという編成で、特にドラムスが大活躍する。「タブー」は戦前から人気のある曲であったが、日本のダンスバンドでレコード化されたのはきわめて珍しく、戦前のダンスホールの雰囲気を味わせてくれる。

実はこのレコード、日本ではレクオーナキューバン・ボーイズの名盤よりも先に発売されている。パリでレコードが発売されてすぐにカバーされたのだろう。やや日本人好みにアレンジされているが、いま聴いてもスリリングな魅力にあふれたレコードである。