ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

Emil von Sauer

エミル・フォン・ザウアー Emil von Sauer(1862-1942)も、同門のローゼンタールとおなじく、リスト門下に下ったときには既に完成されたピアニストであった。

高揚した華麗さはローゼンタールと同様だが、ザウアーはローゼンタールより骨の太さを感じさせ、且つ粋である。同輩のローゼンタールはまだポーランドの郷土色に彩られているが、ザウアーは徹頭徹尾、ウィーンの社交人である。

したがってシューベルトメンデルスゾーンなどは土地の水に馴染むように融和した美しさがある。師リストの作品は言うまでもない。換言すれば、リストの作品をもっとも瑰麗に演奏してみせるために現われたのが、ザウアーというピアニストである。…もっとも小生はピアニストの系譜について詳しいわけではないから、よりリストの面影を伝える奏者もいるのかかもしれないが。

ザウアーは、1923年(西班牙Regal)、25年(独Fox)、28年(独Odeon)、30年(仏Pathé)、38年(英Columbia)、40年(独Columbia)と、飛び飛びに思い出したようにレコードを録音している。

比較的はやく完成されたピアニストであるから、どの演奏も一定の約束された味とタッチを持っているが、しかし考えてみるとこれらは60台から70台後半の人の演奏なのである。

いくつか珍蔵しているザウアーのレコードの中でもっとも美しい外装を持っているのは、この仏Pathé盤である。

ザウアーはしばしば自作曲を弾き、とりわけ"Frisson des feuilles"(=Espenlaub)は二回録音している。日本では「白楊の葉」と訳された、珠玉を転がすような、ピエルブリアントな愛らしい小品である。(画像は同じザウアー作曲「コンサート用ギャロップ」)

対して、1940年にドイツコロムビアに録音した、"Chopin:Etude in c minor"(Op.25-12)は、嵐の吹きすさぶような壮大な演奏である。プランテの「木枯らし」とともに驚嘆すべき出来栄えである。

ザウアーの1940年のライヴ録音がArbiter社でCD化され、両曲とも収められているが、音盤とほぼ違(たが)いのない迫力である。

コロムビア盤は水色のラベルが美しい(スウェーデンコロムビア盤に酷似している)が、プリントが薄いので印字が見えづらい。盤質は薄手で頑強。 1940年録音ではLiszt:Ricordanza"をしばしば見受けられるが、ショパンは稀少だろう。Schubert:Moment musicalなどは盤影を見たこともない。