ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

二村定一のレコード 4

『笑ひ薬』Nipponophone 15689-A 1925(T14) 6月新譜

佐々紅華作詞・編曲による流行小唄。のちに二村自身がビクターで再録音して大ヒットした。近代的なナンセンスソングの嚆矢といえる歌である。

原曲はミンストレル歌手のBilly Goldenが1890年代から1920年頃までシリンダーと平円盤に幾度も吹き込んだ十八番のレパートリー"Turkey in the Strow"で、海外の流行音楽に通じていた佐々がこの流行歌を取り上げて翻案した。笑い薬というシュールな翻案は傑作で、吉田一男の「お笑ソング」(テイチク 旋律は東京節)などさまざまなエピゴーネンを生むこととなる。

二村の歌唱はおもしろおかしいさまを誇張した歌いぶりで、しかし笑う箇所を除いて余計な力が入っていない(後のビクター版では笑う箇所もナチュラルに力が抜けている)。この軽妙さが受けて、『笑ひ薬』はニッポノホンが流行小唄、現代小唄、新流行歌などの種目名で制作した近代的な歌謡レコードではいち早くヒットした。家庭で愛聴されたのだろう、今日見かけるレコードはよく聴き込まれた盤が多い。