ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

【新譜発売のお知らせ】雨の中に歌ふ 二村定一とジャズ小唄

  • 来週11月25日(水)、ザッツ・ニッポン・エンタテインメント・シリーズ*1の第三弾としてアルバム『雨の中に歌ふ 二村定一とジャズ小唄』がビクターエンタテインメントより発売されます! 今年は二村定一生誕120周年。その記念年に滑り込みで間に合いました。二村定一は1900(明治33)年生まれですから、もし生きていれば120歳というわけです。

 

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  • シックでかっこいいジャケは、細野晴臣さんとの名コンビで綴る「デイジー・ホリデー!」とレイモンド・スコット探求で有名な岡田崇さん。二村定一のLP、CDジャケの中ではこれまでにない二村定一の二枚目な魅力を引き出した、素敵な装丁を施してくださいました。
  • 思えばビクターから二村定一の一枚物『私の青空二村定一ジャズ・ソングス』をリリースしたのももう8年前の2012年のこと。拙著『沙漠に日が落ちて 二村定一伝』(講談社)とのコラボでした。この評伝、はじめは締め切りが一ヶ月でしたが当然ながら一ヶ月では無理で、三ヶ月かけて突貫で仕上げました。二村定一に関する情報や素材は20年あまり目につけば保存していたので、手元の材料をかき集めまとめ上げました。突貫作業で書いた割にはなかなかの完成度で、いま補完するとしてもそんなに大工事にはならない自覚があります。
  • 監修者が二村定一のボーカルの愉しさ面白さについて書いたのは、評伝よりさらに2年前の『ニッポン・スウィングタイム』(講談社 2010)でした。そのときから数えると、ビクターエンタテインメントの今回のアルバムは10年越しの二村定一大全集となります。

 

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雨の中に歌ふ

 

  • 『雨の中に歌ふ 二村定一とジャズ小唄』は、DISC-1に海外曲を翻訳・アレンジしたジャズソングを、DISC-2に和製のジャズソングやコミックソング、映画主題歌、シティソング、新小唄などを詰め込みました。このアルバムのためにプロデューサーの保利透氏が新たにマスタリングして、二村の声を活かしつつ聴きやすい音質に仕上げています(ごく一部に金属原盤に起因するノイズがあります)。
  • アルバムタイトルとなった「雨の中に歌ふ」「アラビアの唄」や「洒落男」「君恋し」「神田小唄」といった大ヒット作に、二村が唄う軍歌のようなレア音源、今回初復刻となるテイクを散りばめて、従来の二村定一ファンにも、これから二村定一を聴きたいという人にも楽しいアルバムにしたつもりです。
  • 初復刻テイクには、佐藤千夜子との唯一の共演「平凡節」、1929年のシーズンに二村自身が気に入ってよくリサイタルで歌った「海のメロディー」、大ヒットにかくれて目立たないものの佐々紅華の旋律が美しい「早稲田メロディー」、二村の和物の素養が存分に発揮された「十のそらごと」「塩田小唄」、ビクターでは珍しくテナー歌手として歌い上げた佐々紅華の歌曲「久助の舟」が挙げられます。金属原盤からのクリアなサウンドでこれら二村定一ののびやかなボーカルを復刻することは、監修者の宿願でした。
  • CDタイトルは、ジャズソング華やかなりし時代に同じ意味合いでよく使われていた「ジャズ小唄」が、日本初のクルーナーでジャズシンガーだった二村定一のイメージにぴったりかな、と考えてつけました。個人的には「青春小唄」や「バッカスの唄」、羽衣歌子と歌った「千夜一夜の唄」あたりがジャズ小唄という名称を色濃く感じさせるように思います。

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二村定一愛唱曲集

 

  • この『雨の中に歌ふ 二村定一とジャズ小唄』、さらに注目すべきはサブスクリプション・サービスによって全世界に向けて発売される点です。二村定一がいよいよグローバル・デビューを遂げるのです。実はいま、アメリカやヨーロッパでは日本の1920年代1930年代の音楽遺産が、多大な興味をもって迎え入れられています。彼らは戦前の日本文化に興味を寄せる過程で、日本でどのようなジャズが演奏されていたか、どのような音楽に人気が集まっていたか、どんなタレントがレコードや舞台で活躍していたかを知りたいと考えています。この二村定一アルバムを皮切りとするザッツ・ニッポン・エンタテインメントシリーズがサブスクによって欧米へ紹介されることで、戦前日本のミュージック・シーンへのさらなる興味と理解が広がることでしょう。

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ザッツ・ニッポン・エンタテインメント Vol.1

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*1:毛利眞人著『ニッポン・エロ・グロ・ナンセンス』(講談社 2016)とのコラボ企画でビクターエンタテインメントから発売されたシリーズ。第一弾は毛利監修『ニッポン・エロ・グロ・ナンセンス』。第二弾は佐藤利明監修『ハリキリ・ボーイ/ ロッパ歌の都へ行く』