『牛若弁慶』 Nipponophone 15664 1925(T14) 5月新譜
浅草オペラの少女スターであった相良愛子との共演である。相良は達者な台詞回しと、女優連でもひときわ目立つ愛嬌のある声が特徴である。歌の上手さよりその活き活きした愛くるしい声がお伽歌劇のレコードでも重宝された。
『牛若弁慶』は阿呆陀羅経を唱える坊主が二村、比丘尼が相良という役回りで、牛若丸と弁慶の話は二人が唱える阿呆陀羅経のなかで進行するという、メタな構成をとったお伽歌劇である。佐々紅華や同時代のレコードクリエイターはお伽歌劇という名を借りてさまざまな実験を行なったが、『牛若弁慶』もその一つといえよう。
A面が二村定一の阿呆陀羅経による前説。B面になってようやく牛若丸と弁慶のくだりとなる。相良愛子の牛若と二村の弁慶によるないない尽くしは二人の芝居っ気を楽しむというより言葉遊びの楽しさで、簡素な伴奏で二村と相良がリズミカルに掛け合っている。25歳の二村の巧みな歌いまわし、間合いの取りようはすでに完成された芸である。