ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

二村定一のレコード 1

昨年、大阪から東京へ転居しました。東京での仕事も軌道に乗ってようやく身辺が東京という地に馴染んできたのですが、大阪を引き払うときにプロバイダを変更したため、2000年代半ばから長らく使ってきたホームページが消滅してしまいました。 思えばまだ昭和初期の歌謡やジャズソング、二村定一の情報がウェブ上に少なかった時代がわずか10年前。先人の道を辿ってこつこつと年譜やディスコグラフィを作って公開し、ラベル写真を添えて内容紹介につとめたものです。そうした甲斐もあって二村はいまや戦前歌手でもかなりメジャーな人気者となりました。長年の念願であった二村の評伝『沙漠に日が落ちて 二村定一伝』(講談社 2012)を上梓し、ホームページを開設した頃からの仲間である保利透さんとCDを制作するようになってから二村定一の魅力があまねく知られるようになったことは、実に感慨無量です。 旧ホームページ、ミラーサイトは一応ありますが、もうずいぶん情報も古くなってしまっていたのでおさらいの意味も兼ねて、メインテーマであった二村定一のコレクションを一枚ずつ定期的に開陳してゆきたいと思い立ちました。 評伝の内容については新たにはてなブログで補完を始めましたが、レコードに関しては単なるコレクション自慢に堕しないよう、簡単な説明を加えつつこちらで述べてゆきます。 ディスコグラフィーは既に自著に盛り込みましたから新しく作る手間は今のところ省きますが、いずれweb上での公開も視野に入れています。著作を出してから見つけた2,3の録音については、こちらで新たに紹介したいと思っています。たまCDなど覆刻で聴くことができる音源についても紹介します。 でははじまりはじまり。 二村定一の最初の録音から。 『地獄祭り』 Nipponophone 15195/15196 1924(T13) 12月新譜 根岸歌劇団名義であるが、現在確認できる限りで最古の二村定一の録音である。 従来は佐々紅華作のお伽歌劇『あめやさん』がレコードデビューとされていた。このあと1925年から二村定一は陸続とニッポノホンにお伽歌劇を録音することとなる。 『地獄祭り』の内容については『浅草オペラ 舞台芸術と娯楽の近代』(杉山千鶴・中野正昭=編著 森話社)中の「浅草オペラから舞踊小唄まで - 佐々紅華の楽歴」に詳述したので参考にしていただきたい。 また2枚4面の全篇を『和製オペレッタの黎明 浅草オペラからお伽歌劇まで』(ぐらもくらぶ)に収録したので聴くことができる。二村はレコードデビューにして、このオペレッタのかなり目立つ役どころを与えられている。そうしてのちのちまで人気を支えることとなる豊かな表現力をすでに備えている。当時、佐々紅華の書生をしながら舞台に出ていた二村が佐々から嘱望されていたことを示す録音ともいえよう。