ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

二村定一のレコード 6

『エンサカホイ』『ノンキナトウサン』 Nipponophone 15735-A 1925(T14) 7月新譜

佐々紅華作詞・作曲の漫画童謡。浅草オペラの少女スター岩間百合子との共演である。『エンサカホイ』では二村は岩間百合子の歌唱の合いの手とリフレインの合唱をつとめる程度のはたらきだが、合いの手をいちいち表情を変えて面白おかしく歌っている。のち、1929年に平井英子の歌唱でビクターで再レコード化された。

『ノンキナトウサン』は夕刊報知新聞で1922(T11)年から連載された同名漫画に因んだ童謡で、漫画童謡という曲種の由来となっている。このレコードが作られた1925年に漫画映画『ノンキナトウサン 龍宮参り』と実写映画『ノンキナトウサン 花見の巻』『ノンキナトウサン 活動の巻』が作られ、後者は9月18日に公開されたということなので、その主題歌的な意味合いもあったのかもしれない。

こちらも岩間百合子が歌い、二村はのんきな父さんの役でとぼけた台詞を入れている。小針侑起『あゝ浅草オペラ』(えにし書房)によれば岩間は1897年生まれということなので、このレコーディング時は二村より3つ年上の28歳。浅草オペラ濫觴期からのベテラン女優で、美貌と実力を兼ね備えていた。お伽歌劇の録音もそこそこある。浅草オペラのテナー千賀海寿一の妻である由。

発売月のニッポノホン月報には「報知新聞連載の漫画ですつかり名物親爺になりすました『ノンキナトウサン』にちよいと御手伝ひを願つて面白い童謡レコードをつくりました、『エンサカホイ』『大つきな蛙』と共にお臍の宿替へ請合の滑稽なもので例の如く「紅華さん」の作曲並に指導にかゝるものです。」と記されている。