ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

ジャズオペラ「赤い唇」

今晩から関西発ラジオ深夜便の「SP盤コーナー」復活です。

以前とおなじく、午前2時5分から10分くらいの番組です。

復活第一回目は天野喜久代と柳田貞一の「赤い唇」。

「赤い唇」は1927年にアメリカで流行した歌で、原題を"Red Lips Kiss my Blue Aways" といいます。ダンスナンバーとしても大ヒットして、欧米で何種類ものレコードが作られました。

このレコードでは、「ジャズオペラ」と称して、天野喜久代と柳田貞一が息のあったコンビぶりで、当時のナンセンス・スピードレヴューを彷彿とさせる掛け合いを披露します。

伴奏はアーネスト・カアイが率いるカアイ・ジャズバンド。(ラベル上ではコロムビアジャズバンドとなっています)カアイのギター、坂井透のウクレレ、ジョー・カバーロのサックス、菊池滋弥のピアノ、という顔ぶれです。アーネスト・カアイはハワイから来日して、日本のジャズに大きな影響を与えました。カアイのギター、カバーロのサックスがいずれもとてもいい味です。おそらくカアイの手によると思われるのですが、欧米のダンスレコードを凌駕するアレンジです。

このディスクのすばらしいところは、日本にジャズが根づいて間もない時代であるというのに、すでにブルースのフィーリングが感じられる点です。菊池滋弥はサンフランシスコでブルース奏法を学び、平茂夫などと並んで日本のジャズピアノのさきがけとなりました。「赤い唇」を録音したときはまだ慶応大学在学中でした。

なお、このディスク以前、1928年12月10日には、来日して上野博覧会に出演中であったディキシー・ミンストレルスが天野喜久代とともに同曲をレコーディングしています。そちらは純然たるディキシースタイルでのんびりと楽しくジャズっていますが、カアイのそれは高揚したスピード感と鋭い音楽的センスに満ちています。

「赤い唇」J.V.モナコとP.ウェンドリンクの作曲、伊庭孝訳詩。天野喜久代と柳田貞一の歌、アーネスト・カアイ・バンドの演奏です。1929年3月1日録音、同年5月に発売されたレコードです。