ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

ねえ興奮しちゃいやよ 昭和エロ歌謡全集 1928-1932

さまざまな出来事やイベントに押し流されて、すっかり更新が滞りました。

ずっとおあずけを喰っていたぐらもくらぶCD「ねえ興奮しちゃいやよ 昭和エロ歌謡全集 1928 - 1932」の紹介です。

このCDを企画したのは去年の秋、9月くらいだったと思います。企画を提示したとき、最初は「これ売れるんですか?」という反応だったので半ばあきらめていましたが10月頃に制作が決まり、候補曲の選定、編成表、ライナー含めて12月末までに仕上げました。ぐらもくらぶのCDとしては比較的短期間にまとまった方だと思います。

1月にひき逃げ事故に遭遇して入院しましたが、わざわざ東京から見舞いに来てくだすった保利透氏から出来たてのCDをもらいました。

表紙デザインからレイアウトまで得心のいく出来栄えとなりました。

内容的には、これは僕の懸案だった理想の具現です。

昭和初年から6,7年にかけてのエロ・グロ・ナンセンスと総称される時代には、この時期特有の流行歌が乱発されました。日本の歌謡史を紐解くと、新民謡やジャズソングの流行から古賀政男の古賀メロディーに移行する途中、かろうじて「ザッツ・O.K」や「尖端的だわね」などがエロ・グロ・ナンセンス時代の代表としてちらっと顔を出しますが、その当時のレコード界の趨勢からするととてもとてもそれどころではない。グロはさすがに数少ないですが、エロとナンセンス(及びその2つの要素をミックスしたもの)を売り物にしたレコードは、盛大に一時代を築いていました。そうした埋もれた歌謡をまとめたい、と長らく念じていたのが「ねえ興奮しちゃいやよ」に結実したのです。

この「エロ」への追求は高校時代にはじまりました。

そのころ僕はよく学校をサボって()月一の大須観音のがらくた市に行っていました。なにしろ朝5時始発のバスに乗って、名鉄を乗り継いで午前10時くらいにやっと大須に着くので一日仕事です。ここでは流行歌やジャズソングのほかクラシックもずいぶん買い、長谷川裕泰さん、岩田さんなどコレクターと知己になったのもここです。

長谷川さんに教えられて夏場に丸栄でやっていた中古レコード市に顔を出すようになり、そこに出店していた会社でのちにSPレコードの全てを学び、音楽系の物書きを目指すことになりますから、僕の主な人生は大須から始まっているといっても過言ではありません。

高校2年か3年生の正月、大須には珍しくウブ荷が出て、その中にピカピカの「ねえ興奮しちゃいやよ」(青木晴子 ポリドール)がありました。そのころ相次いで淡谷のり子が変名で吹き込んだ「S.O.S」(水町昌子 オリエント)やマイナーレーベルの「思ひ直して頂戴な」(山田貞子 スタンダード)など、まず歌謡史では触れられない唄に接して、何かそこには一群の共通項があるように認識していました。

それがエロ・グロ・ナンセンスという時代の埋もれた唄の一群だと気づくのは後のことですが、高校時代、ドキドキして聴いていたエロ小唄の感動をそのままパッキングしたのが、このCDです。(もっとも4曲ばかり、コレクター諸氏のご好意で知ることが出来たナンバーが含まれています。)

内容については多摩 均氏のライナーにお任せしますが、エロいといえばエロい、エロくないといえばエロくない。千人万差の反応があることと思います。一面には当時の風俗が濃厚に反映した、考現学的な面白さ・貴重さがありますし、一面にはまことに普遍的で不変的な恋愛、性愛のすがたを見出すこともできます。エロという言葉や意味の現代との違いも比較文化学的に面白い要素かと思います。また、エロ・グロ・ナンセンスと呼応して流行したジャズが通奏低音となってジャカジャカと鳴り響きます。しかし、堅苦しい学究は抜きでこれらを覗きからくりでも覗くように楽しんでいただければ本望です。

発売からすでに半年が過ぎてみると、このCDはかなりの反響を集め、日比谷公会堂アーカイブカフェやamazonでは売り切れと入荷を繰り返しているありさま。企画者としてこれまたありがたく嬉しい思いでいっぱいです。

いささか遅い紹介となりましたが、お手にしていない皆さまはレコード店やメタカンパニーのサイト、amazonなどでお求めください。どうも残部が少なくなりつつあるようですので、お早めの方がよいかと思います。

それからそれから、ただいまこのCDの内容を敷衍した著作を執筆中です。お楽しみに!