ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

CD新譜とイベントのお知らせ

まず、私的な事件ながらこの1月に轢き逃げの交通事故に遭って2ヶ月ほど入院し、その後も療養生活を送っていることを述べねばなりません。幸い歩行がつつがなく行なえる程度には回復してきましたが、その間、僕の身の回りの数多くの方々にご心配を掛け、また励ましを頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。 さて、半ばCD告知の場と化したこのブログですが、今回もそのCDのご報告となります。(入院中にリリースされて目下大好評の『ねえ興奮しちゃいやよ』 昭和エロ歌謡全集 1928~32については別稿にいたします) 先に「大名古屋ジャズ」「大大阪ジャズ」と続いた大都市ジャズ・シリーズの本命といえる「大東京ジャズ」(ぐらもくらぶ)が5月初旬にリリースの運びとなりました。選曲は事故前におおかた済ましていたので、入院中にiphoneから保利氏に送り、他の仕事(JAZZ JAPAN誌 Vol.44"菊地成孔の音楽錬金術 そして,戦前・戦後音楽にそのルーツを辿ってみた")も含めてライナー等の原稿をベッドの上で書きました。便利な時代になりましたねえ。 「大名古屋」では名古屋の一大レーベル、ツルレコードに主眼を置き、「大大阪」では在阪レーベルに東京録音を加えながらモダン大阪の特色を2枚に収めました。「大東京」は、そもそも明治期から日本のレコード産業の中心地であった東京のジャズ録音をどう総括すべきか苦慮しましたが、大正末期から戦前期の顕著なジャズを傾向別にグループ分けして、さらにジャズ文化に包含されるカフェーやダンスホールの録音を加えました。したがってカフェー女給の歌唱や座談、タンゴなどジャズから距離を置く音源も加えていますが、ジャズ第一次ブームである戦前期のジャズ文化を音で体験して頂ければと思います。 今回は厳選エンターテインメント路線を採りましたので、聴いて面白いものを優先ししました。東京では広義のジャズ録音が大正10年ごろから行なわれましたが、最初期の演奏は演奏も録音水準も一般的に楽しむには厳しく、今回はジャズブームが勃興してきた大正末期の珍しい音を一点のみ選びました。 この点を踏まえて、CDの内容は7つのグループに分けられています。 1つめは初期のジャズ演奏。プロの楽団と大学の学生バンドの活躍をざっと俯瞰しました。 2つめはジャズを基調とした東京のシティーソング。二村定一はもちろん、東京でのジャズソング吹込みに多用された天野喜久代、内海一郎など昭和初期の風俗が色濃く反映されたソングスです。 3つ目はクルト・ヴァイルと東京。これには少し説明を要します。1920年代、ジャズはクラシック音楽にも多大な影響を与えました。たとえばガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」はその代表的な一曲ですが、ワイマール期のドイツではジャズオペラ「三文オペラ」が爆発的に流行しました。ヴァイルの日本受容という側面と、1930年代に「三文オペラ」のレコードが作られたのはヨーロッパ以外では日本だけであったという事実をここに明らかにしました。(因みに三文オペラソングは「大名古屋ジャズ」にも2点収録しています。) DISK-02に移って4つ目のグループはジャズの重要な舞台となっていたカフェー文化を語る音。丹いね子と渡瀬淳子という、2人のカフェー・バー経営者の座談は今回のセットでもひときわ存在感を示す珍録音です。カフェータイガー女給の歌う「君恋し」は、当時のカフェーの現場で歌われたジャズソング。これらの音源は当時のカフェーをリアルに体感できることでしょう。 5つ目は、これもジャズの発展の舞台となったダンスホールに関連する録音です。和泉橋ホール、フロリダ、東京ではありませんが埼玉県蕨町のシャンクレール各ホールで活躍したジャズバンドや歌手の残した音から特に優れたものを選びました。とりわけ特筆したいのは、ミッヂ・ウィリアムスが来日時、昭和9年コロムビア・ジャズバンドと録音した「パラダイス」で、今回が初覆刻となります。今回のセットの目玉です。 6つめは東京のマイナーレーベルの音源をいくつか。「大大阪ジャズ」では関西のレコードレーベルがフィーチャーされましたが、東京のマイナーレーベルにはジャズソングは多いのですが、実はその中で当時のジャズの水準を示すに足る録音はごく少量しかありません。いわゆる下手なジャズも当時のジャズの状況を説明するのに必要ではありますが、その種の音源を並べていては正直きりがないというのが実感です。このセットではマイナーレーベルには極めて珍しいすぐれた水準のジャズ・ヴォーカルとスウィングを選びました。 最後の7つめのグループは日劇やアトラクション、軽音楽大会などに関連するジャズです。ジャズの演奏が困難となる昭和15年までの録音ですが、重要なものを選んでみました。 この最後のグループに加わっている人々は戦後のジャズを再興する人々でもあります。その意味で、戦後に大活躍する丹下キヨ子のデビュー録音(昭和14年)を置きました。以上の選曲から戦後につながってゆく大東京ジャズにも思いを馳せて頂ければ本望です。 CD内容についてはtwitterで #ぐらもくらぶ のタグをつけて、ライナーには盛り込めなかった詳細を随時紹介しています。選曲の一部と解説執筆は手術や療養を挟んで行なったので、正直なところ今回はかなり大変でした。ただし手抜きは一切していません! 「大東京ジャズ」と同時に「六区風景 想ひ出の浅草」もリリースされます。 こちらは大衆芸能から流行歌、浅草オペラ、各種特殊録音と広範なジャンルを網羅する著名な大衆芸能研究家・岡田則夫氏と、浅草オペラを専門に研究している小針侑起君の監修で、浅草の演芸を貴重音源で総まとめしています。 奇遇ですが、藤村梧朗・丸山夢路「ほっときなさい」は、まったく相互連絡のない制作状況で「大東京ジャズ」にも「浅草の想ひ出」にも異なる録音で加えられています。(「想ひ出の浅草」は浅草篇、「大東京ジャズ」は新宿篇) さて、この二つのセットのリリース記念を兼ねて、連休中の5月6日(火・振替休日)、江戸東京博物館にてぐらもくらぶイベント「大東京モダンミュージックの世界 浅草オペラから東京の戦前ジャズまで」が挙行されます。 大東京モダンミュージックの世界 〜浅草オペラから東京の戦前ジャズまで〜 「浅草六区に花咲いたエンターテインメントの胎動から戦前の日本におけるジャズソングまで、戦前洋楽史&芸能史をその足跡と音源資料そして実演による追体験として今甦る!」 ★ぐらもくらぶCD「大東京ジャズ」「六区風景 想ひ出の浅草」発売記念★ 出演  大谷能生(音楽家「日本ジャズの誕生」青土社ほか) 毛利眞人(音楽ライター「ニッポン・スウィングタイム」講談社ほか) 保利透(ぐらもくらぶ主宰) ゲスト  岡田則夫(大衆芸能研究家「SPレコード蒐集奇談」ミュージックマガジン社ほか) 小針侑起(浅草オペラ研究家) 片岡一郎(活動写真弁士) 泊(山田参助vo武村篤彦g)+香取光一郎acc 青木研(bjo) 渡邊恭一(ts・cl) ■第一部 13時00分〜 「蓄音器で聴く戦前日本のジャズ世界」 ■第二部 15時00分〜 「浅草六区と浅草オペラ・戦前の大衆芸能」 ■第三部 17時00分〜 「若きジャズマンらによる戦前モダンミュージック座談会」 開催時日時 2014年5月6日(火曜日・振替休日) 12時30分開場13時開演〜19時00分終了予定 入場料 1.500円(入れ替え無し・当日券のみ) 場所 江戸東京博物館ホール 主催&お問い合わせ ぐらもくらぶ gramoclub78@gmail.com オフィシャルサイト「レコード狂の詩」 http://d.hatena.ne.jp/polyfar/ 荻窪ベルベットサンのイベントでお馴染みの大谷能生氏をはじめ、このイベントはゲストが豪華! 詳しくはオフィシャルサイト「レコード狂の詩」をご覧ください。多くの皆様のおいでをお待ちしております!!