ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

LEO SIROTA

レオ・シロタ Leo Sirota(1885-1965)に就いては、山本尚志氏の充実した評伝も出版されており、また復刻CDも多彩に出されているので、今さら愚生如きが評するまでもないであろう。戦前は旧時代的なヴィルトゥオーゾと評し去られる傾きのあったこの知的で気品のある大ピアニストの演奏をふんだんに聴かれるようになったことは慶賀至極である。

SPレコードではレオ・シロタは恵まれていない。そのニュアンスに富んだ振幅の大きい演奏はレコードには収まりきらず、それがため本人も恐らくレコード録音というものにあまり信を置かなかったろうことが、そのカタログの乏しさから想像される。いま一人の巨匠、イグナツ・フリートマンと同種の悲劇を筆者は思い浮かべる。

レコードは1920年代に英国のホモコードに割合多く、1929年から30年にかけて日本コロムビアにごく少量、1942年に日本のテイチクに一枚のみ録音したのが全てである。

筆者の架藏している一枚はホモコードのChopin: Polonaise Op.53、一般に「英雄ポロネーズ」として知られているレコードである。シロタの演奏のダイナミック且つユニークな面が出ている。

いま一枚は日本コロムビアに録音したChopin: Waltz in D-flat, Op.64-1 と裏面の2曲の変ト調エチュード(Op.10-5とOp.25-9)である。この所謂「子犬のワルツ」と称されている曲はモーリツ・ローゼンタールのアレンジが施されており、シロタの輝きと技巧、妙味がもっとも発揮される曲である。ただ残念なことに、前述のように電気録音であるにもかかわらず聴きにくいレコードである。この演奏はかつてヤマハより発売された「日本洋楽史 来日アーティスト篇」に復刻されているので今日でも聴くことができる。