ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

Moriz Rosenthal �T

筆者のピアノの好みはごく古いスタイルの奏派…リストの継承者たちの中でも19世紀末に洗練を遂げた一群のピアニストである。

特にMoriz Rosenthalモーリッツ・ローゼンタール(1862-1946)の輝かしいタッチとポーランド産らしい独特のリズム感には若い頃から魅せられていた。

ローゼンタールは、ヴァイオリニストのヴォルフシュタールやチェロのフォイアマンと同様、ポーランド(現在ではウクライナ)のレンベルクの出身。

リスト門下とはいうものの、神童としてデビューして以来、カール・ミクリやタウジヒ門下のラファエル・ヨゼフィにも師事したので、演奏家としての出自は複雑である。特にショパン門下のミクリからの影響は大きかったのではないかと思われるが、演奏家として洗練を磨いたのはリスト門下でのことである。

当然のことながらレパートリーは同国人ショパンとリスト、19世紀末の技巧的な曲目に偏り勝ちだが、ドビュッシーやリャドフなど異色な曲目もレコードに残している。リヤドフの「前奏曲」「音楽玉手箱」などは同時代の融和美に彩られた、魅力的な演奏であった。

リストの「ハンガリー狂詩曲第二番」は、1930年にドイツ伯林のウルトラフォン Ultraphonに録音され、同年10月に発売された。同時にリストの「愛の夢」"Liebesträum"およびショパンの「子守唄」"Berceuse"も録音・発売されている。

スリーブ入りの写真は、フランスウルトラフォンの袋に収めた状態である。ウルトラフォンのレコードスリーブは、このタイプのデザインを多く見かけるが、ドイツ版がどのようなデザインであったのか忘れた。二種ばかりデザインタイプがあった筈である。

ローゼンタールがウルトラフォンに録音した二枚のレコードは、フランス、チェコのウルトラフォン、アメリカのRoyale(ママ)ローヤルでも発売された。ウルトラフォンがテレフンケンに発展した後も、ナチス治世下のごく初期まで販売されていた。

ハンガリー狂詩曲二番の名盤を問われたら、筆者はまずコロムビアのイグナツ・フリードマン盤と、このローゼンタール盤を挙げる。フリードマンもスケールの大きい、研ぎ澄まされた演奏であるが、ローゼンタール盤は加えて東欧風の野趣に富んでいる。野趣ではあるが、それは粒の揃った美しいタッチで濾過され、サロンの華やかさを醸している。

全体に亘ってローゼンタールの解釈が施されているが、B面にはそれが特に顕著で、ローゼンタール作の幻想的なカデンツァが挿入されているのも、珍しくも面白い。68歳の録音だが、強靭で弾力性のある演奏だ。これより5年後のHMV録音は弛緩してしまって、丸で良くないのである。

録音はウルトラフォン系独特の明瞭で分離のよい、立体的な音。復刻があるが、クレデンザで再生したサウンドを収録しているので、いまひとつクリアさに欠けているのが残念。