ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

Pathé - art

Pathé-artは1927年にフランスパテ社がリリースしはじめた、いわば音盤の芸術品である。

ラベルデザインを当時の著名な装丁家 フランソワ・ルイ・シュミーが手掛けている。シュミーの仕事のなかでもジャン・ デュナンの拵える七宝焼きとのコラボによる本の装丁はたいへんよく知られている。

シュミーは音波を主題として、三種類のレコードサイズ別に3種類のラベルデザインを発表した。

10吋はマリンブルーと白と銀の三色による 瀟洒なデザイン、10.3/4吋にはオレンジと白と金、そうして12吋には黒、白、赤、緑、黄土、群青のシックで壮麗な色彩が用いられた。

この三種のデザインはパテが必要と認めた芸術的レコードにのみ用いられた。

たとえばピアノのエミル・フォン・ザウアー、ヴィエンナ・ダ・モッタ、ヴァイオリンの マヌエル・キロガ、ガブリエル・ブイヨン、ソプラノのニノン・ヴァラン、指揮者のフラ ンソワ・リュールマン、作曲家のヴァンサン・ダンディなどである。

盤質もきめの細かいよく吟味された材料が用いられ、多色刷りの12吋盤は35フラン。通常のポピュラー盤の倍額にあたる。同時代の音盤のなかでは最高級を誇ったがリリース期間は短く、1929年以降はスタンダードなラベルデザインに切り替えられていった。

パテのラベル別価格帯は、黒10"(15fr.)、緑10"(20fr.)、黒12吋(25fr.)、緑12吋(30fr.)。それに対してartラベルは12吋=35fr.(画像・上)、10 2/3吋=25fr.(画像・中)、10"=25fr.(画像・下)という具合である。

画像のマヌエル・キロガ(1892-1961)は西班牙出身のヴァイオリニストで、激しいラテン気質と卓越した技巧、震えるような繊細さを併せ持った名手である。1937年にニューヨークで交通事故に遭い、演奏活動を断念せざるを得なかったのが残念である。

下は専用エンヴェロープに収まった盤。