二村定一のCDと評伝を世に送り出してそろそろ一ヶ月。書評もちらほらと出始めています。
直近では2月5日に日経新聞に、そうして23日発売の「週刊新潮」3月1日号には福田和也氏が見開きで書評を書いてくださいました。
3月11日には、また新たに二村定一のCDがリリースされます!
メタカンパニーの新レーベル「ぐらもくらぶ」から発売される「二村定一 〜街のSOS!〜」がそれです。二村も喜んでくれるでしょうか。
ビクターエンタテインメントの「私の青空 二村定一ジャズソングス」では、彼の代表曲と、昭和初期のかっこいいどころのジャズソングを集めました。それに対して今回、メタカンパニーからリリースされる「街のSOS!」で主眼としたのは、二村定一の多面的なキャラクターを引き出すことでした。
拙著「沙漠に日が落ちて」で述べたレコードを中心に、24曲、いずれも珠玉の芸です。
昭和初期、全盛期をむかえる直前の二村は、スパニッシュな伊達男をきどったラテン風味のジャズソングを好んで歌いました。「リオ・リタ」や「ワ゛レンチヤ」「スパニッシュ・セレナーデ」などがよい例ですが、昭和3年に録音されたタンゴ「アルゼンチンの踊」からは、彼の水際立った粋ぶりが最もよく伝わるでしょう。
コミックソングは二村の人気を形作るうえで大きな要素でした。ニッポノホン、ビクター、コロムビア、ポリドール、キング、テイチク…と各レーベルにコミカルな歌唱を残していますが、とりわけユニークなのが関西資本のニットーレコードに録音した一群の「ダンス小唄」です。今回のCDには7曲ばかり収録しましたが、ダンス小唄という制約を逆に生かした、秀逸なコミックソングが二村のキャラクターを通して生まれたのでした。新興レーベルの太陽レコードも二村をコミックシンガーとして遇したレーベルですが、十数曲の中から怪曲といってよい「街のSOS」と、ディクションまじりの大傑作「もぐりの唄」を特に選びました。もちろん、いずれも初復刻です。
ひとつの時代を築き、なかば時代と心中した観のある二村定一は当然ながら昭和初期の尖端風俗を反映した唄にも重用されました。阪神間の西宮に本社のあったタイヘイレコードでは、二村定一はエロ小唄の王者でした。
レコードに検閲制度が適用される以前、すなわち昭和8年以前はよほど低俗な内容でなければ流行小唄の内容に対する規制は緩慢で、エロ・グロ・ナンセンスを体現するレコードが乱れ飛びました。
各々のレーベルが看板歌手とするに足る戦力を模索する過程で流行小唄の粗製乱造が起こり、尖端風俗をテーマとするレコードの制作が特に突出したという事情もありますが、二村定一のキャラクターが軽佻浮薄、桃色満開のエロ小唄にはまったく打ってつけであったことが、タイヘイでの二村の立ち位置に影響しています。
彼のくっきりと明るい声は陰影を伴っているがゆえにことさらに明るく、しかも中性的でインモラルな潤いを帯びていました。
おそらくそれは浅草オペラで培われた個性だと思うのですが、当CDの「ほんに悩ましエロ模様」や「意味深長ね」などにはヴォーカルの域を超えた、演劇や演芸の要素も感じさせます。
モダン志向でありながらまだ成熟をみない大都市情景が反映されたシティーソング「浅草行進曲」「おしゃらか節」「浅草おけさ」や、小唄に長じていた二村のお得意芸「新調ステヽコ」、演歌調の流行歌「恋慕哀歌」とカット面の多いダイヤモンドのような二村定一の個性を楽しんでいただけると思いますが、かっこいいどころのジャズソングもしっかり収録しました。
伸びのよい美声で歌われる「第七天国」と、スタンダードナンバーの「恋人よかへりませ」は、それぞれ異なる魅力をもった歌唱です。特に後者は、彼のヴォーカルの上達を語るうえでは外せないナンバーです。くわしくはCDをお手にとってお確かめください。
また例によって、伴奏のジャズバンドの演奏にも目を向けて頂きたいと思います。いずれも熱演ですが、詳しくはライナーノートでご覧下さい。
さて、長くなりましたがこのCD「二村定一 〜街のSOS!〜」のリリースと、一足先に上梓された「沙漠に日が落ちて」出版記念として、保利 透さんのぐらもくらぶでイベントを行ないます。
CDに収録した曲目はかけません、選曲で悩んだものの最終的に落としたナンバーと、それから二村と同時代の、昭和ひと桁のジャズソングを目いっぱい楽しんで頂きたいと考えています。といってもまだ選んでいるところですが…。
保利さんも秘蔵の品を持ち出すそうですので、どうぞお楽しみに!
イベントの詳細はこちらをご覧下さい。
「ぐらもくらぶ」第7回イベント
『二村定一・評伝&CD発売記念 〜昭和初期のジャズソング〜 』
昨年秋からリリースが続く復刻CD「ニッポンモダンタイムス」シリーズ、その最後を飾ったのは二村定一でありました。
ビクターから「私の青空 二村定一ジャズソングス」、またコロムビアから「スウィング・タイム」、講談社からは「沙漠に日が落ちて 二村定一伝」が。そして、ぐらもくらぶレーベルからは新たに「二村定一 街のSOS!」と、今年の冒頭は依然、二村定一で話題騒然です!
「ぐらもくらぶ」第7回をかぞえる今回のテーマは二村定一。そして二村とともに時代を彩った昭和ヒトけた期の歌手やポピュラーソングなど、黎明期でもあり、かつ実験的であった日本のジャズソング・和製ポップスに焦点をあてます。
ゲストに、CDと評伝の監修をされた毛利眞人氏を迎え、二村定一とその世界をじっくりと堪能していただきましょう!
出演:毛利眞人 (音楽ライター・「ニッポン・スウィングタイム」「沙漠に日が落ちて 二村定一伝」講談社)
司会:保利 透 (戦前レコード文化研究家・ぐらもくらぶ事務局)
会場・神保町・らくごカフェ
2012年3月10日(土曜日) 19時00分〜21時00分(18時30分開場)
入場料:2.000円 (終了後別途交流会予定あり)
※空席ありの場合は当日入場可能
予約方法
ぐらもくらぶ事務局→ gramoclub78@gmail.com
電話予約(らくごカフェ)→ 03-6268-9818(平日12時〜18時 )
(タイトル【ぐらもくらぶ第7回】、本文に【お名前】【電話番号】【人数】【交流会参加可否】記載の上お送りください。予約完了後数日以内に返信メールいたします。また返信メールが迷惑メールとされてしまう場合がありますので、メールアドレスに携帯電話のアドレスを記載される場合は「gramoclub78@gmail.com」からのメールを受信拒否しないように設定をしておいてください。また、迷惑メールフォルダもご確認ください)
ぐらもくらぶ関連復刻CD情報
「ニッポンモダンタイムス」シリーズ 好評発売中
「笑ふリズム 〜ナンジャラホワーズ〜」 好評発売中
「芙蓉軒麗花 テケレッツノパ」 好評発売中
協力:森田富雄(独逸真空管研究家)
予定使用システム「アンプ:Koerting JKW42(昭和5年頃)」「スピーカー:Klangfilm KL42006(昭和13年頃)またはKlangfilm KLL9430(昭和15年頃)」
主催:ぐらもくらぶ事務局(いにしえ文庫内・03-6273-8158)
ブログ「レコード狂の詩」→ http://d.hatena.ne.jp/polyfar/
ぐらもくらぶ主宰・事務局:保利透