ニッポン・スヰングタイム

著作やCD制作、イベントの活動を告知します。戦前・戦中ジャズをメインとして、日本の洋楽史について綴ります。

『SPレコード入門 基礎知識から史料活用まで』出版のお知らせ

唐突ですが

SPレコードの教科書を書きました。
ものすごく単純に動機を書くと、「困ってる人がいるから」です。


・自分のとこの博物館に古いレコードがあるけど洗い方も保存方法も分類法も右も左も分からない
SPレコードに興味はあるけど(以下同文)


こうした声があることを知りました。オンライン・ワークショップで「SPレコードの読み方」なる講演を行なったときのことです。
2、3度行なった講演ではSPレコードのデータベースを構築するに当たって、SPレコードのレーベル(中央に貼付してある紙片)や盤面の刻印からいかにしてメタデータを取るか、というテーマを中心にさまざまなサンプル画像を提示して語りました。
それが思いのほか好評で、冒頭に挙げたような声が出てきたのです。
そこで、もう少し対象範囲を広げて、SPレコードのコレクションを志す人や「家から古いレコードが出てきたけど(以下同文)」な人のためにガイドブックを作ろうと考えました。

2021年1月11日にメタデータの章から書き始め、同年10月13日には本文の原稿を脱稿しました。
こうしたテーマの書物は日本はおろか海外にも無いので出版社探しにやや難航しましたが、ひょんなことで知り合った個人出版「共和国」の下平尾直さんから「信頼の置ける出版社」と紹介していただいた株式会社スタイルノートさんで出していただけることになりました。書いたものの原稿が宙を彷徨うようなことにならず、まことに僥倖であったと思います。

 

内容について

SPレコードの持ち方、洗い方、保管方法をさまざまな実例を交えて紹介しました。

また基礎知識として世界のレコード史と日本レコード史を簡略に説明しました。

またレコード史に付随して、レコードのサイズや回転数、材質などSPレコードに関わる情報をまとめました。

本書のキモとなるのは第4章、第5章です。

SPレコードのレーベル上の表記や盤面の刻印、商品番号、フェースナンバー、原盤番号など煩雑なデータについては、海外の文献やwebサイトを参考にしました。また国内のSPレコードについても典拠を示すことが可能な資料やレコード会社からの情報、一次資料、経験則を基にまとめました。

第5章ではレコードについて調べる際の文献、サイトねまた探索のためのtipsを紹介しました。付録として「SPレコード用語集」を付けてあります。

 

入門編を旨としたので、あまりにコアで応用する人が限られるような情報は涙をのんで削りました。たとえば日本の各レーベルのマトリックスナンバー(原盤番号)と録音年月日の対照表は、作るのは作ったものの掲載は見送りました。
また各レーベルの録音システムについてもごくごく大まかに述べた程度です。基本、レーベルと盤面から分別できる情報を重視しました。たとえばオデオンのラウムトン録音やテイチクのハイフレックス録音といった録音方式など録音史に関わる情報は並べて書きたいのを敢えて抑えました。こうした情報はwebで関連情報として紹介したいと考えています。

 

SPレコードの金額的な価値、レア度については書いていません。レコードのレア度、金銭的価値は時代によって変遷しますから。数十年前にン十万円の珍品だったレコードが現在はヤフオク!で数千円で手に入ったりします。

 

SPレコードの所蔵館は別の要素で紹介をためらいました。全国のすべてのSPレコード所蔵館がSPレコードに関する対応をできるとは限りません。所蔵レコード整備が這般の事情で進まない所蔵館もあります。むしろ万全の対応ができる館は少数派です。なので、代表される2、3の館を別として個別の所蔵館紹介はしませんでした。お含みください。
その代わり、webで広がるSPレコードの関連サイト、アーカイブ、データベースの世界をわりと詳しく解説しました。文献資料についてはもちろんです。


もちろん個人で比較的短期間にまとめたので漏れもあるかもしれません。

また異なった見解をお持ちの方もあるかもしれません。

特にレコードの洗い方や保管方法などはコレクターそれぞれが試行錯誤した歴史があります。どれが正解でどれが間違いということの少ない世界です。確実にこれはいけない、というのは

SPレコードをアルコールを含んだウォッシャーで清掃してはいけない(レコードが溶ける)

※過度に積み重ねると割れるよ 

くらいなものです。


メタデータの読み取り方については、これは確実に正解と間違いがあります。データについて現在のところ不明な点がある場合や出典が不明の場合は、断言せず慎重な姿勢で紹介しました。

本書内ではGramophoneは「蓄音機」表記で統一しました。これも戦前から「蓄音器」「蓄音機」と両方が併用されていて、どちらが間違いということはありません。どちらも正解です。ただ音響機器関連の人や評論家、行政は「蓄音機」を、レコード会社を中心としてその他大勢の人々は「蓄音器」を用いました。こだわりがあるわけではありませんが個人的には蓄音機をふだんから用いています。

 

最後に、この一冊をまとめたのは毛利眞人という個人ですが、ブライアン・ラストさんや岡田則夫さん、倉田喜弘さんはじめ、先達の研究がなければここまでコンパクトにはまとめられなかったでしょう。本書はそうした先達へのリスペクトの書です。

 

と、いうわけで5月16日に発売される『SPレコード入門 基礎知識から史料活用まで』(スタイルノート,  2640円=税込)、宜しくお願いいたします!
なお本書は配本なしの注文出荷制ですので、書店の皆さまからの注文をお待ちしております!!

www.stylenote.co.jp